君に届くまで~夏空にかけた、夢~
「初めまして、鈴木雅史(すずき まさし)です。夏の地区大会、お疲れさんだったね。平野くん」


確かに、初めましてだけども。


鈴木監督のことは以前から知っている。


高校野球の夏の地方大会の中継や、甲子園の中継で何度も見ているのだ。


監督、というにはまだ若くて、監督、という貫録みたいな威圧感もなくて、爽やかな人だなと思っていた。


実際に会ってみると、ますます爽やかだった。


「平野くん」


「は……はいっ」


「きみ、良いスイングする子だね。地区大会、観させてもらったよ。中学生にしてはタッパのある子だなと思って、観てたんだ」


身長、いくつ? 、と鈴木監督が聞いて来た。


「あ、あの……実はまだ伸びてて。今現在は、180センチです」


「大きいね。うちの菊池とそう変わらないな。杉原」


と鈴木監督が笑うと、杉原コーチが「ええ。そうですね」とおれをまじまじと見て聞いて来た。


「平野くんのポジションは、センター、だったね」


「ははははいっ」


「観たよ、地区大会の試合。センターからのノーカットの、バックホーム。良い肩してるね」


「あっ……ありがとうございますっ」


極度の緊張とその力余る勢いで下げた頭を、テーブルにゴッチリとぶつけてしまった。


「いっ! ……ってえええ!」


悶えながら顔を上げると、鈴木監督はやっぱり爽やかに笑って言った。


「野球センスも良いけど、元気も良いね」


「そうですね」


と笑った杉原コーチの口元に、一本だけシャキンと尖がった八重歯を発見した。


杉原コーチはまだ若くて、親近感漂う何かがあった。


「さっそくだけど。平野くん」


和やかな空気が一変したのは、鈴木監督の顔から笑みが消えたその瞬間だった。
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