君に届くまで~夏空にかけた、夢~
「ぐっちゃん……どうしよ……おれっ」


この人生でまさかこんな事が起こるなんて思ってもいなかったから、どう対処すればいいのか分からなかった。


「だってまさか、桜花なんて!」


パンフレットとプリントを掴んでのっそりと立ち上がったおれの肩をがっしり抱いて、


「修司。お前が、響也と健吾と南高校受けようとしてるのは分かる。でもな、こんなチャンスはもう二度とないぞ。真剣に、考えてみなさい」


ぐっちゃんが言った。


「お前の気持ちひとつだ。あとは、おじいさんとおばあさんに、相談してみろ。気持ちが固まったら、報告に来なさい。先生にできる事なら、なんだってしてやるから」


「うん……」


失礼しました、と放心状態のまま向かった先は、なぜか、教室だった。


真っ直ぐ、図書室に戻るような気分にはなれなかった。


夏休み中の教室は誰も居なくて、からっぽだった。


陽射しがたっぷり差し込む窓辺に立って、開け放たれていた窓から空を見上げた。


声には出さずに、心の中で、ふたりに聞いた。


なあ、こういう場合って、どうすればいいと思う?


行きたいって言ったら、じいちゃんとばあちゃんは、何ていうと思う?


ふたりなら、応援してくれていた?


視線を、プリントに落とした。


そこには、大まかな説明とこれからの経緯が記されていた。


試験は2月。


国語、数学、英語の3教科で250点が必要なこと。


野球部員は、登下校に20分以内の範囲だったら通いが許され、それ以上かかる者は寮生活が義務づけられること。


学費、寮費、施設金、入学金が3年間免除されること。


いわゆる、特待生制度についてが大まかに記載されてあった。


2枚目のプリントには、野球部の事についてが載っていた。


遠征費、練習着、スパイク、ユニフォームなどに必要な金額を見て、めまいがした。


「やっぱ……無理だよなあ……」


ああっ、と溜息を落としていると、カタン、と音がして、振り向くと教室の入り口にクラスメイトの女子が立っていた。


「修司くん」


吹奏楽部の部長の、坪井佳織(つぼい かおり)だった。


「桜花に行くの? 桜花の野球部」
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