君に届くまで~夏空にかけた、夢~
おれものそのそと空を指さして、


「甲子園?」


と首を傾げた。


「うん、そう! 甲子園! 野球部で言うと甲子園! ブラバンで言うなれば、そこは普門館! 私、普門館でトランペット吹くの。プワーって」


と坪井は瞳をキラッキラ輝かせて、青空に向かってトランペットを吹くジェスチャーをした。


「パパパパパ、プワー!」


めちゃくちゃ、楽しそうに。


「へえ。なんか、坪井、すごいね」


うだうだ悩んでいるおれより、男前だなあ。


「だって、私の夢だもん! 譲れない夢だから」


すげえな。


おれは県内の高校に行く事でさえこんなに迷ってんのに、坪井は県外の高校に行く事にためらうことすらしていない様子だ。


「譲れない夢、か」


ぼそっと漏らしたおれを見て、坪井はくすくす笑った。


「ねえ、修司くん。今夜の金曜ロードショー」


「あ、ラピュタ?」


うん、そう、と坪井は言って、また青空を指さした。


「何だっけ。えっと、ほら、パズーの台詞でさ。あの雲の向こうに、見たことのないなんちゃら……」


「見たことのない島が浮かんでいるんだ?」


「そう、それっ!」


と坪井がおれの顔をビッと指さして、ぱあっと笑顔になった。


「見てみたいよね! 見たことのない島!」


あっ、いっけない、と坪井は時計を見るなり慌てた様子で駆けだした。


「私、お母さんから用事頼まれてたんだ」


そして、


「今日の空、きれいだね! 明日も晴れるといいよね!」


バイバーイ、そう言って、坪井は風のように走り去って行った。


胸がざわざわ、ざわざわする。

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