君に届くまで~夏空にかけた、夢~
夢。


譲れない、夢。


おれの。


鈴木監督からもらったプリントをじっと見つめて、深く深く息を吸い込んだ。


それを今度は一気にブハーと吐き出して、とっさに目を細めた。


眩しくて、たまらなかった。


突然、窓から光線のような陽射しが降って来たのだ。


父さん。


母さん。


ゆっくり、窓の外に顔を向ける。


「おれはっ……」


そこに広がっていたのは。


窓の外いっぱいに広がっていたのは。


青い青い、夏の空だった。


プリントをくしゃくしゃに折りたたんで、ズボンのポケットに突っ込んだ。


そして、夏の青空に背を向けて、教室を飛び出した。


もう、止まらなかった。


どうにもならなかった。


一気に廊下を駆け抜けて、図書室に飛び込んだ。


「響也、健吾! ごめん!」


窓際の席に座ってきょとんとするふたりに頭を下げた。


「「どうした」」


声を重ねたふたりに、おれは真っ向から伝えた。


「一緒に南高、行けねえや、おれ」


ごめん、と謝るおれを健吾が笑い飛ばした。


「何をほざいているのかね、平野氏。高校にも行かずプウ太郎でもする気かね」


最近の若者はけしからん、と健吾は人差し指と中指でシャープペンシルを挟み、ぷかぷか煙草を吸うジェスチャーをした。


「いや、違うんだ」


苦笑いしたおれに、響也がすっと立ち上がる。


「どうした、修司」


熱を孕んだ風が窓から入って来て、カーテンを膨らませた。
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