君に届くまで~夏空にかけた、夢~
「おれ、桜花に行こうと思う」


ガタン、と健吾が立ち上がる。


「今、桜花の監督とコーチと話して来た。来ないかって。桜花に来ないかって、言ってもらえたんだ」


「な……に……言ってんだよ」


カシャーン。


それは、健吾の手から落ちたシャープペンシルの音だった。


それは床をころころ転がって、椅子の脚にぶつかって止まった。


口をあんぐりさせて固まる、健吾。


無表情のままそこに立ち尽くす、響也。


「ごめんな。おれ、南高行けねえ」


もう一度ふたりに頭を下げて、おれはテーブルの上にあった響也の自転車の鍵を掴んだ。


「今日、チャリで来なかったんだ! 貸してくれ!」


そして、おれは図書室を飛び出した。


3階から1階まで階段を一気に下り、玄関を飛び出して、駐輪場で響也の自転車の施錠を外して飛び乗った時、


「どこ行くんだよ! 修司!」


と健吾が、次いで響也が上履きのまま飛び出して来た。


「家。じいちゃんとばあちゃんに、頼んでみる! ダメ元で頼んでみる!」


「修ちゃん! ねえ、今の話って」


さらに飛び出して来た花湖に、そして、呆然と立ち尽くす大切な親友ふたりに、おれは言った。


「行きたいんだ! 桜花で、野球がしたい!」


ぐん、とペダルを踏んだおれにはもう、迷いはもちろん、葛藤すら一切なかった。


桜花で野球がしたい。


その一心だった。


見上げた空は、やっぱり、青かった。

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