君に届くまで~夏空にかけた、夢~
ぽっぽ、ぽっぽ、ぽっぽ、ぽっぽ。
時計から飛び出した鳩が、4つ、鳴いた。
「あとは、君の気持ち次第だって。これ、渡された」
全てを話し終えて、ズボンのポケットから出したプリントをじいちゃんの前に差し出した。
「どうしても行きたいんだ。桜花で野球がしたい」
ふむ、とじいちゃんがプリントに視線を落とす。
その横で、ばあちゃんがうなだれていた。
「んだのか」
ぱさっ、とちゃぶ台の上にプリントを落として、突然、じいちゃんが立ち上がった。
「じいちゃん?」
呼び止めても返事はせず、じいちゃんは無言のまま居間とつながっている座敷に消えて行った。
絶対ダメだって、そういう意味か、と肩を落とした時、
「こるああ! 正雄! 孫の話、ちゃんと聞いてたのかよ!」
無視すんじゃねえ! 、と健吾がでっかい声を出した。
すると、
「やっかましいわ」
と渋い声が座敷から返って来て、むっつり顔のじいちゃんが戻って来た。
66歳にしては軽快な足取りだった。
「聞いでだじゃ」
どしっ、と座ったじいちゃんがちゃぶ台の上に置いたのは、レトロ過ぎる柄の巾着袋だった。
古くなった端切れで作った、ばあちゃんの手作りの物だ。
「まっさが、こったに早く使うど思ってねがったなあ」
とじいちゃんは言い、巾着袋から2冊、通帳を出してちゃぶ台に並べた。
一冊は農協の、もう一冊は郵便貯金通帳だった。
どちらも少し色褪せていて、少しくたびれ気味だ。
「何だ、これは。正雄のへそくりか?」
健吾が聞くと、
「まんず、そったもんだ」
とじいちゃんが笑った。