君に届くまで~夏空にかけた、夢~
「なんか、決着ついたら腹減ったな。世津子がくれたアンパン食おうぜ! くれ」


ぬうっと手を伸ばす健吾に、響也から回って来た袋を渡した。


大きな袋に、小さいサイズのアンパンが8つ入っている。


「いっただきまーす」


バリッと袋を破いて、ひとつめのアンパンにかぶりつき、健吾がはむはむしながら「ふむ」と立ち止まり、またすぐに歩き出す。


「ところで、諸君。アンパンは一食に値するのか、しないのか。はたまた、おやつに含まれるのか。これはまだ未解決事件だったな」


「……まだんな事言ってんのかよ」


この暑いのによくアンパン食えるなあ、とでも言いたげな目で、響也が健吾を見つめる。


すると、響也とおれの隙間に、花湖が自転車を押してするりと入って来た。


「アンパンはお菓子だよ」


ねっ、修ちゃん、と花湖がワイシャツの裾を引っ張った。


「お菓子……じゃないと思うけど」


苦笑いしたおれの腕をぐいっと引っ張って、ふたつめのアンパンをはむはむしながら、健吾が顔を寄せた。


「じゃあ、アンパンの正体は一体何だと言うんだね、平野氏!」


げっふうー、とゲップをした健吾に、響也が「汚ねっ」花湖が「やだあ」と顔をしかめる。


「さあ……分かんねえよ。どっちでもいいじゃんか」


適当にかわすと、


「ていうか、何でそんな事いちいち気にしてるの? 健吾くんてちょっとへんな人」


さらに花湖がたたみかける。


「るっせえ! ブス!」


「またブスって言ったあ! 花湖、ブスじゃないもんっ」


「ブスはブス」


健吾と花湖は、いつもこうだ。


顔を合わせるといつも口論になる。


わあわあ言い合うひたりに溜息を吐いて、響也が呟いた。


「パンは、パンだろ」


響也はいつも、冷静だ。


物静かで、優しくて、努力家で、頭がいい。


普段も冷静だけど、野球をしている響也は怖いくらい冷静だ。


「アンパンは、アンパンだろ」


そんな響也を「ギャグセンスがない」と健吾は言う。


「だからあー! パンはパンでもアンパンは一食に値するかしないか、おやつに含まれるのか。おれはそれが知りたいんだよ!」


「だから、パンはパンだろって」


「んだからあー! おれはだな、響也!」
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