君に届くまで~夏空にかけた、夢~
「パンは、パンだ。おれはそう思う」


「……もういい。響也のいう通りにする」


一見、くだらなすぎてどうでもいい、でも妙に笑えるこの光景をこうして隣で見ていられるのも、あと半年か。


「ねえ、修ちゃん」


親友たちを見つめていたおれの顔を、花湖が覗き込んで来た。


「うん?」


「あのさ」


愛くるしいチワワのような目がくるくる輝いている。


「本当に、南高、受験しないの?」


「うん。しない。ごめんな、もう、決めたんだ」


花湖の無邪気な表情が、一気に曇る。


というより、不機嫌顔だ。


「本当に……寮に入るの?」


「うん」


「ええーっ。やだあ! やだやだやだっ」


とじだんだ始めた花湖に、すかさずアンパン研究家が突っ込む。


「ブスがどうこう言ったとこでどうにもできねえんだよ。修司は桜花で野球すんだから。修司が、そう決めたんだ」


うっ、と声を詰まらせて、でも、負けん気の強い花湖が言い返す。


「なんで? 友達なら止めてよ! いいの? 修ちゃんと離ればなれになっちゃっても平気なの? 3人は親友なんでしょ?」


「あのなー。女のべったりしたきしょい友情と、男のさっわやかーな友情は天と地なの。ブスには一生わっかんねえだろうけどな!」


へっへーん、と駆け出した健吾の背中に花湖が叫んだ。


「何それ! こんな風に会えなくなるんだよ! それでも健吾くんは平気なの?」


「あのな、花湖ちゃん」


と優しく話しかけたのは、響也だった。


「大切な親友だから、止めないんだ」


そして、響也はひらりと自転車に飛び乗った。


「それに、会えるし。同じ夢っていうか、同じ“場所”を目指してる者同士だから、おれたち。嫌でも、必ず、会うんだ。おれたち」


な、そうだろ、修司。


そう言って、響也はおれの右肩を左手で弾いて、自転車で健吾を追いかけて行く。
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