君に届くまで~夏空にかけた、夢~
「健吾! 乗れ!」


前を走っていた健吾が弾かれたように振り向いて、追いついた響也の自転車の荷台に飛び乗った。


「あの空に向かって突っ走れーい! 青春だぜ、こんにゃろい!」


夕空に、健吾の声が吸い込まれて行く。


胸が熱くなった。


「よっしゃ」


おれは、花湖から自転車をうばった。


「後ろ乗れ、花湖」


「えっ」


「久しぶりに、二ケツしようぜ!」


花湖の自転車はサドルが低くて、三輪車みたいだ。


「早く乗れって! 一気に追い越すぜ、あいつら」


すると、花湖はぱあっと笑顔になって、荷台にまたがり「うんっ」とおれの腰に細っこい腕を回して抱きしめた。


「飛ばすぞ」


グン、とペダルを漕ぎだす。


おれの耳に花湖が言った。


「修ちゃん! なんか、修ちゃんの」


「え? 何?」


「修ちゃんの背中、おっきくなったねえ! 男の人みたーい!」


「あったり前だろ! おれ、男だし」


花湖を自転車の後ろに乗せたのは、いつ以来だったかな。


なつかしいな。


小学校の頃はよくこうやって、二人乗りしていたっけな。


小学生のころは、花湖とそう変わらないくらいの背丈に体型だったのに、今の花湖はおれの半分しかない。


気付いたら花湖は幼なじみだったし、気付けばいつも一緒にいて。


修ちゃん、修ちゃん、って甘ったれでわがままで、本当の妹みたいで。


響也と健吾に追いついて横に並ぶと、


「おー、修司。そんなわがままブス、そこらに落っことして来ればいいのに」


荷台でアンパンをはむはむしながら、健吾がケッと舌打ちをした。


健吾は口は悪いが、優しい男だ。


ブス、と言いながらも、お前も食うか? 、と花湖にアンパンを差し出す。


「なあ、健吾。あんましいじめんなよ、花湖のこと」


おれが言うと、健吾はやわらかな笑顔で花湖を見つめた。


「おい、花湖。お前もアンパンの研究仲間にしてやるよ」


健吾も、響也も、分かっているのだ。


本当は、花湖がどういう子なのかを。

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