君に届くまで~夏空にかけた、夢~
それこそが、問題発言だった。


「花湖、桜花大附属、受験するっ!」


はああ? 、とおれたちは同時に振り返り、花湖を見つめた。


「花湖、修ちゃんと同じ高校に行くのー!」


いくのー、いくのー、いくのー。


花湖の声が目の前の上り坂を一気に駆け上がり、その先に広がる空の向こうに追いかけっこしながら伸びて、消えた。


「ほざけ、ブス!」


と健吾がアンパンにかぶりつく。


「あんまふざけた事言ったら、はふはふはふはふ……」


アンパンを口いっぱいに詰め込みながら健吾が何かを言っているけれど、さっぱり分からなかった。


「ふざけてないもん。それに、花湖、ブスじゃないもんっ」


案の定わあわあ言い合いを始めたふたりを小さく笑って、


「お前も、気苦労が絶えない男だな。修司」


と響也が空を見上げた。


「まあ、な」


おれも空を見上げて、もう、笑うしかない。


坂道の先は、息を飲むような朱色だ。


「桜花の練習は、きっと、半端じゃねえんだろうな。負けんなよ」


修司、と響也が言った。


「負けねえよ」


朱色に吸い込まれそうになりながら、返した。


「絶対、負けねえよ」


背後では、健吾と花湖がぎゃんぎゃん言い合っている。


ああ、まじ、すっげえなあ。


人生、何が起きるか分かったもんじゃねえ。


泣けてくるような、朱い朱い空が広がっていた。


もうすぐ、夏が終わろうとしている事に気付いた。


ひまわり畑の側に立っている木から雨のように降ってくる鳴き声が、おれたちを包み込んでいた。


つくつくおーし、つくつく、おーし。

< 34 / 193 >

この作品をシェア

pagetop