君に届くまで~夏空にかけた、夢~
ルームメイトの誉は食が細く、高校球児にしては頼りなさげな平べったい体型だ。


「おれなんか食っても食っても、筋トレしてもしても、こんなんだからさ」


背は175センチとそれなりなのに、ひょろひょろしたその体型のせいで、確かに儚げだ。


そのせいで、誉は先輩たちから変なニックネームを付けられてしまったのだ。


“ビエラ”だ。


薄型プラズマテレビのように薄い体だから。


それが理由だ。


しかし、誉は瞬発力や機敏さが長けていて、セカンドの守備は1年の中でも頭ひとつ抜けている。


「落ちんなよ。まだ4ヶ月だろ。これからだって。焦んないで地道にこなしてけば、3年になる頃はムキムキだって」


むくっと起き上がって「なっ」と言ったおれをじっとりした目で睨んで、誉が口を尖らせる。


「修司はかっこいいよな。余裕があるもんなあ」


「何言ってんだよ。ねえよ、んなもん。今日だって菊地先輩からこてんぱんにやられたしな」


「えっ、まじ? 今日は何て言われた?」


「ほら、ノックの時。二遊間抜ける強烈なゴロが来てや、イレギュラーしたやつ後ろに逃した時」


初心者かよ。


んな打球も捕れねえのかよ。


もっぺん中学からやり直せ。


「……あれは効いたなあ」


とその時の事を思い出してへこんだ時、


「点呼ー! 点呼ー! 全員、1分以内に1階に集合ー!」


と廊下からその声が聞こえた。


「遅れた者はその場で腕立て100やらせっぞー!」


引き攣り顔の誉と目が合った。


「「げえっ……ザビエルだ!」」


おれと誉は声を合わせて、同時に立ち上がり、ガアーンとドアを開けて廊下に飛び出した。


全室から、みんなが凄まじい形相で飛び出してくる。



「どけや! アホが!」


前にいるやつを突き飛ばすやつ。


「いいから行けよ! 後ろ詰まってんだろうが!」


無駄に声を張り上げるやつ。


「いてっ! 押すんじゃねえ!」


押されて躓いて、イラつくやつ。


「ちっきしょう! あんのザビエル! いつか沈めてやっからな」


1年全員の今の気持ちを代表してくれるやつ。


ずどどどど、だだだだ、1年の足音が地響きになる。


この男子寮は4階建てで、1,2,3階を野球部が占領している。

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