君に届くまで~夏空にかけた、夢~
4階は柔道部、サッカー部、それから因縁の陸上部の特待生たちが入っている。


1階は野球部3年、2階は2年、3階は1年だ。


点呼はそれぞれの部活ごとに行われて、その部の寮長が管理室へ報告に行く仕組みだ。


野球部の点呼は練習後、全部員、風呂も飯も終わったような頃にかかる。


新体制になってから点呼に呼びに来るのはキャプテンの荒木先輩か副キャプテンのザビエルだ。


「誰だよ! 今、突き飛ばしただろ!」


自ら壁に激突して罪のないやつに言いがかりをつけるやつ。


「いいから急げ! 見ろ、おれのこの姿を!」


確かに急ぐ気持ちは分かる。


が、慌ててパンツ一丁で飛び出してくるばかだっている。


しかも、それが、真っ赤な出前一丁のトランクスだからがっくりくる。


「「うわあっ! 誰! 今、おれを押したの!」」


同じ顔で、同じ声で、同じ事を言う双子だっている。


総勢37名の1年たちがドミノ倒しのような勢いで、3階から一気に駆け下りる。


荒木先輩が点呼の担当の日はいい。


しかし、ザビエルが担当の日は、この階段が連休最終日の首都高のようになる。


大渋滞だ。


1階の玄関前に、ザビエルがストップウォッチを片手に目を光らせていた。


「56、57、58、59……1分!」


間に合った。


「よし。右からー、番号!」


1から82。


34名の3年生が抜けた今、桜花男子寮には1、2年合わせて75名の野球部が居る。


「よし、全員確認。明日も強化練習なので早く寝るように」


解散、とザビエルが言うと、ぞろぞろと各々の部屋に戻る。


「まじで容赦ねえよな。ザビエル」


「みんな疲れてんだって。腕立て100なんかやってらんねっつの」


3階だけが、1年生の王国だ。


3階に上がると、みんなが一気にだらける。


「ぜってえアレだよな。ザビエルって死なねえよな」


「なに、不老不死って?」


「それだ! それそれ」


「何よ、ザビエルって妖怪なの?」


「妖怪だろー。あのタフさは妖怪だろー」


おやすみー、ではなく、お疲れー、と仲間たちの声が飛び交い、各自の部屋に収まっていく。
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