君に届くまで~夏空にかけた、夢~
まさか、とは思った。


でも、花湖は本当に桜花を受験した。


推薦ではなく、一般入試で入って来た花湖は約1時間半をかけて通っている。


両親から猛反対されても、ガンとして聞かなかったらしい。


花湖らしいと思う。


頑固なのだ。


おれは入学式の2週間前から寮生活を始めていて、練習にも遠征にも参加していたから、ちょうどホームシック気味だった。


そこに、


――修ちゃん!


と真新しい紺色ブレザーに紺色ネクタイの花湖が現れた時は、さすがに嬉しかった。


入学式の後、廊下でおれと話している花湖を見た誉は腰砕けになってしまったらしい。


わがままで気まぐれで頑固で、負けず嫌いで気分屋で、ぶりっ子な女の子に。


――なあ! あの子、修司の何! 


華奢で小柄な守ってあげたくなるその容姿と、アイドル顔。


そして、そのアニメ声も。


ど、ストライクだったらしい。


――なんて可愛いんだ……尻に敷かれたい。けちょんけちょんにされたい


相当の腰の砕け方だった。



「可愛いよなー、まじでよー」


うっとりする誉から携帯電話を奪い返す。


「もういいだろ?」


「なな、修司。花湖ちゃんて、中学の時めちゃくちゃモテただろ」


「さあ。よく分かんねえなあ。おれ、野球しか興味なかったから」


「にしたって、幼なじみなんだろ?」


ある事を思い出して、笑ってしまった。


「誉の天使、とある人物からブスって言われまくってたけどな」


健吾ってやつにな。


「なに……んなトンチンカンが居たのか?」


と誉が怖い顔で寄って来た。


居たんだな、これが。


「そいつの名前は?」


誉が聞いて来た。
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