君に届くまで~夏空にかけた、夢~
「岩渕健吾」


「イワブチ? 誰よ、そいつ」


「将来、桜花を唸らせるひとりだよ。たぶんな」


はあー? 、と誉が眉間にしわを作った。


「中学ん時、同じ野球部でキャッチャーだった。今は地元の南高で野球続けてんだ」


ぼすっとベッドに浅く腰掛けると、


「南高? うお、すげえじゃん」


と案の定、誉が食いついて来た。


「今年の南高、凄かったよな。つっても、凄かったのはあのエースくらいだったけど」


と誉が隣に座った。


誉が言う“あのエース”とは、響也が憧れてやまないサウスポーだ。


今年は彼が南高を甲子園に導いたと言っても過言ではない。


「それよかさあ、なあ」


誉がすり寄って来て、


「もっかい花湖ちゃんからのメール読ませろ!」


と強引に携帯電話を奪った。


「あーもう。好きなだけ見ろ」


可笑しなって吹き出しながら壁に寄りかかると、なあ、と誉がディスプレイをおれの顔に突き付けながら言った。


「花湖ちゃんて、修司のじいちゃんばあちゃんとすっげえ仲良いんだな」


「ああ。あいつ、じいちゃんとばあちゃんになついてて」


「いや、ほら。花湖ちゃんからのメールの内容って、いつも修司のじいちゃんとばあちゃんの事だから」


花湖はあの通りの性格で、自由奔放で。


だから、女子ウケってのが良くないらしく、女の友達があまり居なかったりする。


「花湖は寂しいんだよ」


決して口にはしないけど、花湖は寂しいのだ。


昔からそうだった。


「何よそれ。どういう事」


聞いて来た誉に「他言無用な」と先に告げてから、打ち明けた。


花湖のじいちゃんもばあちゃんも、早くに亡くなった。


おれたちがまだ保育園の頃だったと思う。
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