君に届くまで~夏空にかけた、夢~
「シャイなんだな、修司は。この部屋には今、おれたち以外誰も居ない。恥ずかしがる事はないし、遠慮だっていらねえぞ」


さあ、この誉の胸に飛び込んで来い、そう言って細い両腕を大きく広げるそいつを笑ってしまった。


「どあほう」


なんか、誉のこういうとこ。


健吾にそっくりだなあ、なんて思ったら可笑しくて可笑しくて。


そして、猛烈に嬉しかった。


これは誉なりの精一杯の優しさなのだ。


お前、大変だったんだな、とか。


同情されたくないおれの気持ちを誉なりに摘み取ってくれているのだろう。


さすが、ルームメイトだ。


同情の言葉を言われたくないおれの事を、誉はきっと、分かっている。


だから、そういう類の言葉を一切口にせずにいてくれるのだ。


「修司! おれ、まじでお前に惚れちまったぜ。つうか、お前が同部屋で本当に幸せだ、おれは」


「そりゃどうも。なら、花湖の事はもういいって事だな」


「いや! それはまた別の話だ!」


「二兎追う者、一兎も得ず!」


おれは久しぶりに腹の底からげっらげら笑いながら、誉に馬乗りになった。


「修司! おれはお前を愛してしまったんだー!」


誉がおれの体に巻きついてくる。


「気色わりいんだよ!」


本当に、ソッチの趣味などない。


でも、なぜかやけに楽しくて、可笑しくて、妙にくすぐったくて。


「アームボンバー!」


「ぐはっ……コブラツイストー!」


ベッドがギッコンバッタン、ぶっ壊れそうなほど軋む。


「回転十字固めー! からの、エビ固めー!」


「まだまだー! ローリング・クラッチ・ホールド!」


おれたちはベッドの上でプロレスの技をかけ合って、げらげら笑ったり、奇声を上げたりした。
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