君に届くまで~夏空にかけた、夢~
夏はどこの部屋も窓を全開にして寝ているものだから、うるさかったらしい。


網戸を越えて両隣の部屋から苦情が飛んで来た。


「うるっせええ! 修司! ビエラー!」


「寝ろやああ!」


「追放されてえのかあーっ!」


「ザビエルにちくっぞー!」


その晩、おれと誉は互いのベッドをくっつけて、いろんな事を語らいながら寝る事にした。


中学時代の武勇伝。


響也や健吾のこと。


誉の親友のこと。


時々しんみりしながら、げらげら笑った。


でも、最終的に行きついた先はやっぱりひとつだった。


「なあ、修司」


暗闇にぽつり、誉の低い声が蛍の光のようにぽわりと浮かび上がる。


「行きてえよな。甲子園」


おれは頷いた。


「行きたいじゃなくて、行くんだよ。おれたちは。甲子園に行く」


「絶対な」


そう言って間もなく、誉の寝息が聞こえて来た。


つられたように睡魔が襲って来る。


ところが、だ。


「……るっせえー」


数分も経たないうちに、限界はやってきた。


おれは耐え切れなくなり、ベッドを抜け出してわしゃわしゃ頭を掻いた。


「くそっ、ビエラ」


口を開けて幸せそうに眠る誉の寝顔を睨む。


最初は、すうすう。


次第に、くかくか。


そこまでは許容範囲内だったからいい。


その直後に、それはゴオゴオになった。


真っ青な空を一気に通過して行くジャンボジェット機の音だ。


それが地響きと化して、おれの体にびりびり振動してくる。


やかましくてたまらない。


「るっせんだよ、このやろ」


ガオガオいびきをかく誉の額をべしっと叩いてやった。


「……んがっ」
 
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