君に届くまで~夏空にかけた、夢~
「……ったくよー。まじで疲れてんのに」


あー、と息を吐き出して、携帯電話を片手に窓辺に立つ。


時刻は午前1時になろうとしていた。


あと6時間後には練習が始まるってのに。


3階のおれたちの部屋からは、桜花の敷地内が一望できる。


右手奥から桜花大学、隣接されているのは短期大学と講堂。


手前に来るとおれたちの学び舎、コの字型の白と黒の校舎があって。


右奥から女子ソフトボール部のグラウンド、この寮の正面はサッカー部、ラグビー部、陸上部の共同大グラウンド。


そして、左手奥にぐるりと緑色のフェンスで囲まれた野球部のグラウンドと、屋内練習場。


屋内練習場のさらに奥にある2階建ての建物は、部室だ。


部室の横の坂道を下って行くと、附属幼稚園と小学校、中学校がずらーっと並んでいる。


ここ周辺一帯は、いわゆる、桜花王国だ。


この敷地はぐるりと一周、緑に囲まれた自然豊かな場所にあって、でも、少し外れると閑静な住宅街と下宿や学生アパートが密集していたりする。


それに、自転車で10分も行けばコンビニだってあるし、激安スーパーもある。


そこから間もなくの所はもう駅横で、賑やかだ。


この部屋から眺めるグラウンド風景が、おれは本当に好きだ。


県立球場をミニチュアにしたような、ナイター設備やバックスタンドと得点板。


屋内練習場だって試合ができるくらいでっかいし、ブルペンだってある。


こんなにも立派な所で野球に没頭できるのも、じいちゃんとばあちゃん、背中を押してくれた親友たちのおかげだ。


感謝してもしきれない。


真夏の夜風を、胸いっぱいに吸い込んだ。


誉の強烈ないびきをBGMに、作成途中だったメールを編集して花湖に送信した。


すると、間もなく電話がかかって来た。


「おっ」


まだ起きてたのかよ。


慌てて電話を受ける。


誉を起こしてしまうんじゃないかとひやひやしながら、小声で話す。


「もしもし」


『修ちゃん、まだ起きてるの?』


「それ、こっちの台詞だから」


ふふっと花湖の笑い声が、疲れ切った体にほんの少しだけ心地よかった。


『だって夏休みだもん。夜更かししたいんだもん』
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