君に届くまで~夏空にかけた、夢~
「そうか。で、どうした?」


と聞きながら夜空を見上げて、わくわくした。


群青色の空を満天の星がびっしりと埋め尽くしている。


夜が明けたらまた、青空だ。


『うーん。特に用事はないよ。修ちゃん、元気かなと思って電話してみただけ』


そんなこったろうとは予測していたけどな。


「何だよ。元気だって。用がないなら切るぞ」


『ええーっ! 花湖、もっと話したいのにい』


「ばか。同部屋のやつ寝てんだよ。起こしたらかわいそ――」


思わず、言葉を飲み込む。


この部屋の真下を通過して行くその軽快な足音を探した。


タッタッタッタッ。


『修ちゃん?』


「……え……ああ、うん……」


『どうしたの?』


「いや、別に」


『ねえ、今度のお祭り、修ちゃん行く?』


花湖に何かを質問されている事は分かる。


でも、それがどんな内容なのか、いまいち分からない。


それどころじゃない。


『修ちゃん? 聞いてるの?』


ただ、耳の奥で花湖の声がするだけだ。


声を出したくても、出してはいけない気がした。


『ねえっ、修ちゃんってばっ』


太り気味の満ち欠けの月を、雲が隠してしまった。


誰だ。


おれは息をひそめて、その足音に耳を澄ませながら真下を見下ろした。


月明かりが雲に吸収されて、しっかりとは確認できない。


網戸越しに、目を凝らして見る。


すらりとした長身のシルエットが、真下を通過して行った。


誰だ。


こんな真夜中に。

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