君に届くまで~夏空にかけた、夢~

曖昧な距離

どうせなので、大げさに言う。


阿鼻叫喚。


私立 桜花大学附属高等学校

硬式野球部


ここは、阿鼻地獄に落ちた者が責苦に耐えられず泣き叫ぶ、地獄だ。


いや、また少し違う。


誰ひとりとして弱音を吐かない。


なぜならば、その拷問に耐えられない弱者は、泣き叫ぶ前に自ら姿を消すからだ。


「去る者、後追わず」


と、監督とコーチはにこやかに和やかに、そいつらをあっさりと見送った。


地獄の沙汰も実力次第。


ここは、運など通用しない。


何かにつけても実力がものを言う。


ここは、そういう場所だった。


恐ろしい世界に足を踏み入れてしまったのかもしれない。


その事に気付いたのは、入部して翌日だった。


「おれたち、もうついてけねえわ」


「お前らは頑張れよ」


食うか、食われるか。


弱き者は食われ、強き者が残る。


甘えや情けは一切許されない。


入部した1年生は60人いた。


それが翌日には一気に減り、40人になった。


その20人は初練習の翌朝一番に退部届を提出し、グラウンドからも寮からもあっけなく去って行った。


あんな地獄の拷問みたいな練習を3年間も続けられるかってんだ。


みんながそう口々にしていた。


それでも、3年生がいた頃だったので、総部員数は100名を越えていた。


2日目の練習直前のミーティングの時、監督が厳しい口調で告げた。
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