君に届くまで~夏空にかけた、夢~
「辞めたい者は遠慮せずに申し出なさい。代わりはいくらでもいる」


練習はこれからだってのに、その言葉を聞いたおれはくらくら眩暈を感じた。


「うちの練習は県下一きつい。そういうメニューを組んでいるつもりです。それについて来れない者は必要ない。そういう者は要りません」


ぐるぐる、ぐるぐる、目が回りそうだった。


なんつう所に来てしまったのか、とも思ったほどだ。


「このグラウンドに1歩足を踏み入れたら、先輩も後輩もない。生存競争に勝利した者だけが9つの枠に入れる」


100人越えのこの中で、たった9つの枠。


まあ、宝くじよりは確率は高いけど。


意識が遠のきそうになった。


「1年でも適格者であれば即起用。2年3年だろうと不適格者であれば外される。うちには経験値や年功序列という言葉は存在しない」


下剋上だ。


そして、3日目。


3年生34名、2年生38名。


1年生はついに40名を下回り、37名になった。


総部員数、マネージャーを含め、110名。


3日目のきっつい練習後のミーティングで、コーチが言い切った。


「この部で生き残るという事は3年間、生存競争を強いられるという事だ。実力の無い者はばっさり切られる事を覚悟しなさい」


戦争だ。


そう思った。


いや、待てよ。


バトルロワイヤルみたいなもんじゃねえか。


血こそ流しはしないが、潰し合いだ。


恐ろしいとこに来た。


それから春の市内リーグだの県大会だの、練習試合だの遠征だのと、今日までの4ヶ月間なんて思い返して見ても、一瞬のようなものだ。


朝起きる、朝練、飯、学校、練習、飯、風呂、寝る。


か。


朝起きる、飯、練習、飯、練習、飯、練習、風呂、寝る。


だ。


8月22日から24日までの4日間、夏の強化練習が組まれた。


おれを、いや、部員たちを殺そうとしてんじゃねえのかと思った。
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