君に届くまで~夏空にかけた、夢~
その時、


「修司ー! 誉ー!」


フェンスの向こう側で、グラウンドに残っていたおれたちを呼んだのは、1年生きってのムードメイカー。


お笑い担当の、葉山一誠(はやま いっせい)だった。


野球やめてヨシモト行けよ、と突っ込みたくなるくらい、一誠は面白い。


「どうしたー、おにぎりー!」


彼のニックネームは、“おにぎり”だ。


しかも、そのニックネームをたいそう気に入っているらしく、真面目な顔をして「改名してもいいと思ってるんだ」なんて言う。


その由来は2つあって、ひとつは、大好物がおにぎりだということ。


しかも、握り方や具にやたらとうるさいし、厳しい。


ふたつ目は、アンパンマンに登場するキャラクターの“おむすびまん”のようなつぶらな瞳と、ほっぺたが常にぽっぽと赤いからだ。


葉山おにぎり。


……ウケる。


そのおにぎりが、ぶんぶん手を振ってくる。


「食堂に来いってさー! 夜食あんだとさー! どっこいさー!」


周りにいる連中がおにぎりにチョッカイをかけてげらげら笑っている。


おーう、と手を振り返して、最後になってしまったおれと誉は急いだ。


食い物が絡むと、誉は目の色を変える。


少しでも人よりたくさん食って、ムキムキになろうって魂胆だ。


「おっ先ー!」


ばばばば、と支度をして、アニメのようにピューンとグラウンドを飛び出して行った。


小食のくせに。


「平野」


ちょっといいか、と戻って来たのは、同じ1年の南波詠斗(なんば えいと)だった。


「おお、南波。聞いたか? 夜食あんだって。珍しいよな。急がないと無くなるぞ」


「ああ。べつにいい。そこまで腹減ってるわけじゃないから」


南波はこの夏からすでにベンチ入りしていて、2年のエースを脅かす期待の右腕投手だ。

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