君に届くまで~夏空にかけた、夢~
初対面の日、すぐに分かった。


南波は中学の時もちょっと名の知れる投手だったからだ。


県大会で優勝、そして、東北大会にまで出場した注目の右腕投手だった。


「どうした?」


スパイクの土を落としながら聞くと、南波はまた一歩近寄って来た。


「あのさ、平野」


南波は正直とっつきにくい。


部の仲間たちもよくそんな事を言って苦笑いしていたりする。


そして、南波自身もわざと仲間の輪を避けるように、大抵は一匹狼だ。


キリッとした一重まぶたで、あっさりとしたその顔が崩れたのを見た者は居ない。


時々、和製の彫刻なんじゃねえかな、なんて思う。


未だかつて南波の笑顔を見たという者は居ない。


南波のルームメイトでさえ、どう接すればいいのか分からない時が多々あるそうだ。


おにぎりの一発芸を見てみんながどっと笑っている横で、南波は真面目な顔でじっとしているのだ。


あのさ、平野、その後黙り込んだ南波に聞いた。


「何か話があるんじゃないのか?」


「ある」


真っ黒な練習帽をすっと取って、ようやく南波が口を開く。


「昨日と今日。平野のプレー、最悪。酷過ぎる。何しに桜花に来た? 何かあったのか?」


しかも、この鋭さ。


「お前、ままごとみたいな野球しに、ここに来たのか」


屈辱だった。


へたくそ、とか、野球センスねえな、だとか、お前は野球に向いてない、とか。


そうやって攻められる方がまだマシだった。


最悪。


酷過ぎる。


何しに桜花に来たのか。


このトリプル攻撃はかなり効いた。


「別に……何もねえよ。ごめんな、もっと努力する」


「嘘つくなよ」


南波が睨むように、真っ直ぐおれを見つめて来る。


けれど、至って冷静な目だ。


「お前、菊地先輩に遠慮してんのか」


そして、ストレートだ。


その右腕から投じられる、マックス140の直球のように。


「……」


言葉が出て来ない。
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