君に届くまで~夏空にかけた、夢~
「お願い、修司。取って下さい」


仏様を拝むように合掌する鞠子は、なぜか、おれを盾にする。


便利、便利、快適、快適。


なんて、きゃらきゃら笑って、2本の触角をぴょんぴょこ弾ませる。


「あのさ、あんまし頼んないでくれる? おれはおれでやる事すっげあんの」


「だって、1年生部員の中で修司が一番おっきいじゃん。先輩をこき使えっていうの? 頼れるのは同じ1年生!」


まあ、確かに。


「……しょうがねえなあ」


とか、毎回ぶつくさ言いながらも言いなりになるしかないおれもおれだが。


「修司、がんば!」


おれの背後で鞠子がふんふん鼻息を鳴らしながら、ガッツポーズをする。


「いけそう? ひとりじゃ無理っぽい? 応援要請する? 誉とか」


「あのね。こんなんひとりでも楽勝だから」


女と一緒にすんな、とタンカをきったはいいが。


段ボールに両手をかけて、いや待てよ、と背負っていたスポーツバッグを床に下ろす。


手を添えて、なんだかこれは妙なずっしり感があると思ったのだ。


何が入っているのか。


うっ、と力を入れて、ほこりをかぶったそれを一気に持ち上げ、


「おおおおっ、と」


どすっと床に置いた。


腰がぴきっと軋むくらいの、かなりの重量があった。


「何これ、何なのこれ、すっげ重っ」


「さーんきゅ。助かったー」


と鞠子がいつの間にか用意していたほうきと雑巾でほこりと蜘蛛の糸をささっと払い落とした。


「これ、何入ってんの?」


腰をとんとん突きながら覗き込むと、


「歴代の秋季大会のスコア!」


と段ボールに手をかけた鞠子が豪快に開く。


「……うお。すっげえ」


段ボールの中は隙間など一切なく、ぎっしりとスコアブックが詰め込まれていた。


これじゃ重いのも当たり前だ。


「ほら、来月は秋季大会でしょ。データまとめようと思って。棚にあるのって、夏の大会のだから」


まあとりあえずはここ5年くらいのやつを、とひょいひょい抜き出して鞠子はそれを自分のバッグに詰め込んだ。


「ふーん。熱心だね。さすがマネージャー」


「まあね。やっぱり、行きたいじゃん、夏も、春の選抜も」


と鞠子が言いながら段ボールにふたをした。


「あ、もういい? じゃ、もとに戻しとくぞ」


段ボールを持ち上げようとすると、


「ああっ、いい! そこの隅によせといて。わたし、修司みたいに簡単に上げたり下げたりできない」


鞠子がおれの腕をぱしっと捕まえた。


ぎゃっ。


と声が出そうになった。


「お……おい、鞠子。大丈夫か?」

< 66 / 193 >

この作品をシェア

pagetop