君に届くまで~夏空にかけた、夢~
「そうだっけ」


とおれ的にかなり上手に笑ったつもりでいたけど、どうも明らかにへたくそだったらしい。


「もしかして、禁句だった?」


鞠子が不透明な笑い方をして華奢な肩をすくめる。


「どうしたの? 修司も菊地先輩も。昨日から明らかに変だよね。ふたりともミスばっかりだし、目……合わせようともしないし」


こうも的確に突かれると、マネージャーって侮れないポジションを守備してんだなと思う。


「別に。普通だろ。ミスは、あれは、おれの実力不足だから」


「どこが普通なの? わたしを誤魔化そうったって、無駄な努力なんだから」


マネージャーが何も気付かないとでも? 、と鞠子が詰め寄って来た。


「菊地先輩と何かあったね?」


なんとも強気で鋭いもやしっ子だ。


「さあ、観念してもらいましょうか」


「ああ……」


観念した。


「うちのマネは恐ろしいな。期待の投手もな」


南波にはあんなに拒んだくせに、なぜか鞠子にはあっさり観念した。


鞠子は尋常ではないほど、口が堅いからだったのかもしれない。


「さっき、南波にも同じとこ突かれたんだ」


観念したおれはスポーツバッグを下ろすと、年季の入った椅子に腰かけて、帽子をテーブルに置いた。


「詠斗に?」


真向いに、鞠子が座る。


黙り込むおれに、鞠子は無言でテーブルをバンと叩いた。


わっ、と質問攻撃されるより、無言攻撃されたほうが迫力がある。


言いなさい、そういう目を鞠子はしている。


「いや、あの。実は……見ちゃったんだよな」


「何を」


「一昨日の夜……なんだけど」


あの真夜中の涙を打ち明けると、鞠子は一瞬だけ目を細めて、


「理由はひとつしかないよね」


ふうう、と息を吐きながら椅子にもたれ掛った。

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