君に届くまで~夏空にかけた、夢~
それから間もなくして、おれたちは部室をあとにした。
ふたり並んでグラウンドのフェンス横を通過していた時、夜空を見上げながら鞠子が呟くように言った。
「夏井くんと岩渕くんて、どんなふたりなのかな」
「えっ。何であいつらの事知ってんの?」
小さい鞠子を見下ろすと、目が合った。
巨大アーモンド型の目の真ん中に、三日月が映り込んでいる。
「花湖ちゃんから聞いたの。昨日、長電話しちゃって。夏井くんと岩渕くんて、南高に行ったんでしょ?」
鞠子と花湖は普通科の女子クラスで、席が隣になった事がきっかけで仲良くなったらしい。
友達を作るのが下手な花湖の事だから、きっと、鞠子から話しかけたんじゃないだろうか。
花湖も生まれて初めて信頼できる友達ができたと大喜びだった。
鞠子と花湖はよくふたりで行動しているらしい。
ふたりは似たり寄ったりの体型で、どことなく顔つきも似ていて、おれたちのクラスでは双子説がでっちあがったほどだった。
花湖と鞠子は頻繁におれたちのスポーツ特待生クラス(スポーツ科)に来るのだ。
たぶん、花湖がむりやり鞠子を引っ張り出して、鞠子がそれに付き合ってくれているだけなんだと思うけど。
「南高で野球続けてるんだよね?」
「うん。そう」
不思議なものだ。
ほんの4か月前までは、毎日一緒に居たっていうのに。
隣には、毎日、ふたりが居たのに。
今は居ない。
へんな感じだ。
「どんなふたりなの?」
「どんな、って聞かれてもなあ」
「会ってみたいな。夏井くんと岩渕くんに。それで、聞いてみたいな。中学生の頃の修司のこと」
そう言った鞠子は微妙なニュアンスの微笑み方をした。
とても興味深そうで、でも、どこか寂しそうな横顔だった。