君に届くまで~夏空にかけた、夢~
おれはぎゅっと手を握った。


「一体、何なんですか! なんで避けるんすか、何で無視するんすか!」


おれはたぶん、我慢強くない。


「何で泣いてたんですか! それをおれが見たからですか! だから避けるんですか!」


2日間、我慢してみたけど、すでにもう限界だった。


「菊地先輩!」


「平野」


菊地先輩が立ち止まった。


でも、やっぱり振り向いてはくれなかった。


「何ですか」


だから、仕方なくそのでっかい背中を睨んだ。


「お前さ。人の事に首突っ込んで人の心配ばっかしてると、そのうち自分見失うぞ。自分の事だけ考えてろ」


その声は、今まで聞いた中で最も真剣なものだった。


「それとな。大事な子も失うぞ」


菊地先輩の真っ白なTシャツの裾がはたはたと夜風に揺れる。


「さっきの言い方はねえよ。鞠ちゃん、今頃、泣いてるな、きっと」


「は? 鞠子?」


校舎の方から吹き下ろすような山車風がびゅうっと吹いて来て、菊地先輩のTシャツを膨らませた。


「鞠子は関係ないじゃないですか。意味が分かんないっす」


ぴたり、風がやんだ。


「まじで意味分かんねえの?」


はい、と即答したおれを菊地先輩はクッと笑った。


「幸せなやつ。いいね、平和で」


むっとした。


明らかに嫌味ったらしい言いぐさに、むっとした。


ぱた、と菊地先輩が歩き出す。


「菊地先輩! おれはもう嫌です! おれじゃ役に立てないかもしれないっすけど、何か力になれないっすか! 嫌です……先輩とこんなぎくしゃくしたままなんて」


大きく息を吸い込んだ時、立ち止まった菊地先輩が、唐突に声を荒げた。


「俺は逆に嫌だね! いつまでもべたべた仲良しこよしの先輩後輩関係なんて!」


たまらず、息を飲んだ。

 
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