君に届くまで~夏空にかけた、夢~
まるで銃撃を受けたような、たぶんそんな感じの衝撃だった。


「だらだら、ママゴト遊びみてえなポジション争いする気はねえよ!」


と、振り向いた菊地先輩の目は般若のようにつり上がっていた。


菊地先輩の後ろに、月明かりに照らされた夜のグラウンドが広がっている。


「いつまでも後輩気分でいんじゃねえよ!」


菊地先輩はいつも優しくて、明るくて、爽やかで、面倒見が良くて。


「それは……分かってます。けど、でも、おれにとっては憧れの先輩なんです。先輩が苦しんでるの、だまって見てろって言う方が無理っす」


確かに軽くてちょっと女にだらしないのに、野球となると目の色変えて厳しくて。


そのギャップがめちゃくちゃカッコ良くて。


「お前のそういうとこ、嫌いなんだよ!」


けど、まさかここまであからさまに突き放されるなんてこれっぽっちも思っていなかったおれは、かなり堪えた。


完全に打ちのめされた。


重症だった。


「その前向きひたむきなとこ! どんな事にも真正面から向き合おうとするとこ! 本当は辛いくせに、真っ直ぐなとこ!」


動けるはずがなかった。


ちゃんと呼吸ができているのかさえ、よく分からなかった。


「お前のそういう陰日向ない性格、前から嫌いだったんだよ!」


できる事なら、今、ここから消えてしまいたかった。


ジャリ、と踵を返して、菊地先輩はグラウンドの方へ走って行った。


撃沈。


いつも背負っているスポーツバッグの重さが半端じゃねえ……。


ずっしりなんてそんな可愛いもんじゃねえや。


どっしりだ。


背中が重たくて、もう、うつむくしかなかった。


かげひなたない。


陰日向ない。


カゲヒナタナイ。


ばか言ってんじゃねえよ。


おれは、陰日向ありまくりだ。


「……平野」


あほみたいに突っ立っていたおれの肩を叩いたのは、


「あ……深津先輩」


現在のエース、深津航大(ふかつ こうだい)先輩だった。
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