君に届くまで~夏空にかけた、夢~
「……まじすっげえ数。これ、父兄からの差し入れとか? 強化練習最終日だからお疲れさんってやつ?」


と聞きながら、ごま塩のやつをがぶりとやった。


うまい。


「うんめっ。何これ、まだあったけえじゃん」


中身は蜂蜜風味の甘酸っぱい梅がたっぷり入っていた。


外は冷めていたけど、その中はまだほかほかとぬくもりが残っていた。


2つめはしその混ぜ込みをがぶりとやった。


うまい。


そしてもう一口がぶりとやろうとしたその時、背中にぶつかって来たのは、海苔のやつを取り合う双子だった。


「「あっ! ごめん、修司!」」


「何取り合ってんだよ! まだこんなにあるだろ? 座って食えよ!」


ふたりは、いつも落ち着きがない。


「だってよう! 宗佑がおれの昆布捕るんだ!」


と言ったのは兄の辻雄祐(つじ ゆうすけ)で、


「だってよう! 雄祐は昆布ばっかり食うんだ!」


と言ったのは弟の辻宗佑(つじ そうすけ)。


兄はレフト、弟はライト。


「あー、おい、雄祐」


とおれが話しかけたのはどうやら片割の方だったらしい。


「おれ、宗佑!」


「えっ、わりい!」


どうも、この辻兄弟の区別がつかない。


みんなも同じだ。


「うらあ! 走んな! 宗佑!」


「だからあー! おれ、雄祐!」


「おらー! 雄祐! てめえ、今ぶつかったべ!」


「ああああーもう! おれ、宗佑!」


似てるねー、とかもうそういう問題じゃない。


完全なる、判子だ。


辻兄弟は一卵性双生児で、みんなが区別に頭を悩ませている。


「だーっ! ややこしいんだって! 辻兄弟!」


誉が頭を抱えるのは日常茶飯事だ。


そんな誉の背中をぽんと弾いて、1年のまとめ役、一真が立ち上がった。

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