君に届くまで~夏空にかけた、夢~
「えーと。雄祐はこっち、宗佑はこっち」


「「正解!」」


「よし。じゃあ、雄祐はこっちに、宗佑はこっのテーブルに座って食え」


大人しく辻兄弟が指定された席に座ると、おおおおー! 、と拍手喝采。


さすが、一真だ。


監督やコーチや先輩でさえ間違えるのに、一真はふたりを呼び間違えた事がない。


区別をつけるシルシが2つあるのだと、一真は言う。


ひとつはきりっとした一重の左目尻にほくろがあるのが兄の雄祐で、右目尻にあるのが弟の宗佑。


ふたつ目は、つむじの巻き方向なのだそうだ。


左に巻かれているのが兄の雄祐、右に巻かれているのが弟の宗佑。


「お前らさ、紛らわしいからや。名前書いたハチマキするとかさ、色違いの襷かけとけよ、常に」


誉がぶつくさこぼす。


すると、一同がどっと笑いに包まれる。


その勢いに便乗して騒ぎ出したのが、おにぎりだ。


「おにぎりは、日本のファーストフードだ!」


となりのテーブルで、おにぎりがおにぎりについて熱く語り始めると、今度は1年のおにぎり討論が始まる。


梅はテッパンだ、とか、筋子が許せない、とか。


握り加減とか。


そんな様子を眺めながら、真向いに座っていた南波が無愛想にボツッと呟いた。


「ともぐい」


「おお」


おにぎりが、おにぎりを食う。


「うまいな、それ!」


おれはぶはっと吹き出した。


「だろ」


でも、南波はやっぱり笑わないのだ。


その時、食堂のドアが勢いよく開いて、


「うっせえぞ、1年! 食ったら風呂入って寝ろ! 今日は時間が遅くなったから点呼なしな! 全員居るよな? 堤!」


それはザビエルだった。


すると、一真は素早く人数確認をして「全員居ます」と告げた。


「よーし。いいか、まじで静かにしろよ」


しん、と水を打ったように静まり返った食堂に、バタン、とドアの閉まる音が響く。


が、ここで素直にいう事を聞くやつなんているわけがないのだ。


すぐにやかましさが倍になってぶり返した。


「うるせえっつってんだろうが!」


今度はガアンとドアが開いて、ザビエルが再登場して、言った。

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