君に届くまで~夏空にかけた、夢~
そんなおれを察したのか、「おれ、雄祐」「おれ、宗佑」とふたりは自ら名乗った。


右手が雄祐、左手が宗佑。


先に雄祐が言い、


「鞠子、遅いな。修司、何か聞いてないの?」


すぐに追いかけるように宗佑が、まったく同じ事を言った。


「鞠子、遅いな。修司、何か聞いてないの?」


変に疲れる。


「何も聞いてねえよ。つうかさ、同じ事繰り返すなって」


おれが笑うと、兄が「宗佑が真似した」弟が「雄祐に先に言われた」とわあわわ言い合いながらレーキを押して、走って行った。


その後すぐに入れかわるように走って来たのは、おにぎりで。


「修司! 鞠子から何か連絡来てねえの?」


とこいつもまた辻兄弟と同じ事を聞いてくるのだ。


聞いてねえよ、と返事をすると、そっか、とどこか腑に落ちない様子たっぷりの顔で、


「とりあえず、ポカリ作んねえと」


おにぎりは部室へ向かって走って行った。


「修司!」


今度は誉だ。


「鞠子、休むのかな! 何か聞いてねえの?」


何だ何だ、どいつもこいつも。


と、呆れながら立ち止まる。


「だから、何も聞いてねんだって。何よ、みんなしてや。何でおれに聞くんだよ」


「えっ、何言ってんだよ」


「は?」


「へっ?」


と素っ頓狂な声をぽーんと弾ませて、誉が見つめて来る。


そのぽけんとした誉の顔があまりにも滑稽で、力が抜けた。


え、とか、は、とか、へ、だとか。


おれと誉は互いに調子っぱずれの声を、キャッチボールのように投げては受け合った。


熱風が吹いて、足元の砂が流れる。


だってそうじゃん、と誉が言った。


「鞠子っつったら、とりあえず修司だろうが」


「何でそうなんのや」


「お前ら、気付くと一緒に居んじゃん」


んだべ、と誉に背中を叩かれて、あ、と気付く。


そうだったのかもしれない。


気付くと、鞠子はいつもおれの背中に隠れていたりする。


「困った時とか、とりあえず修司のこと頼るじゃんか。あいつ」


な、と誉が言ったのとほとんど同時に部室の方から困りきったような声が飛んで来た。
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