君に届くまで~夏空にかけた、夢~
「なあー! ポカリの粉ってどこにあんのー? 分かるやついねえー?」


鞠子が居なくてわっかんねえー、とおにぎりが右手をぶんぶん振っている。


「冷蔵庫の上とかはどうや! 確認したのか?」


「ねえよー!」


「したら、あすこは? 救急箱置いてる棚!」


「ねえのー!」


グラウンド整備していたみんなが動きを止めて、落胆する。


「どうすんだよー……」


「先輩来んじゃんよー」


「終わってるってまじで」


「まいったなあ……鞠子が居ねえとこれかよー」


バットやボールやマシンはいつもの場所から出せばいいけど、グラウンドもレーキでならせばいいけど。


それ以外の事はいつも鞠子が率先してやってくれるし、テキパキと指示を出してくれるから、みんな、まかせっきりなのだ。


鞠子が居なくて初めてその事に気付いたおれたちは、右往左往になっていた。


ああ、と誉が情けない声を出して、意味も無く帽子をかぶり直す。


「さっきから何度も連絡してるらしいんだけど、反応ないらしいんだわ、鞠子のやつ」


ほら、と誉が指さした先には携帯電話を耳に当て、青ざめた顔の一真が居た。


情けねえな。


いかに、鞠子に頼りっきりだったのかという事だ。


今日までの日々を思い返して、溜息がこぼれる。


鞠子は誰よりも早く来て、一番最後に帰る。


道具の準備もグラウンド整備もやってくれるし、毎日でっかいウォーターサーバーのタンクを3台用意して、粉末からスポーツドリンクを作る。


何から何までテキパキこなす。


ボールの縫い目がほつれればすぐに縫ってくれるし、大量のボール磨きをひとりでやる。


部室の掃除だって毎日だ。


試合のスコアは完璧に記述するし、過去の試合のデータもまとめる。


怪我人が出ればでっかい救急箱を抱えて走って来て、丁寧に素早く手当してくれる。


ノックの時の補助もするし、ボール拾いだってする。


遠征や合宿の時の食料飲料の手配と、泥だらけのユニフォームの洗濯も。
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