君に届くまで~夏空にかけた、夢~
誠実な一真なんて、かなり笑える。


あごが外れてしまったんじゃないかってくらい、あーんぐりしている。


無理もない。


鞠子の頭からトレードマークの触角が2本とも消えていたのだ。


たった一夜でどこかへ行ってしまった。


おれはみぞおちを抱きしめながら、声を絞り出した。


「まっ……まり……」


どうしたんだ、鞠子。


何があった。


長くてつやつやだった黒髪はキャラメルブラウン色になっていて、ばっさり、ショートヘアーになっていたのだ。


「もう! しっかりして! 救急箱も出てないじゃない!」


たたた、と部室に駆け込んで行った鞠子が救急箱を抱えて戻って来ると、部員たちがわあっと集って行った。


「何! 何がどうしてそうなった! おい、鞠子!」


「その頭、どうした! フリョ―カラーじゃねえか」


「いや、でもすんげえ可愛いぞ」


「中学生だろ」


「つか、まじでどうした! お前、本当に鞠子か?」


まるで甘い甘いキャラメルにわらわらと集まる、蟻の大群だ。


「うるさーい!」


鞠子のどでかい声に一同が静まり返る。


「ただのイメチェン! いいから早く準備しよう! 先輩たち来ちゃうでしょ」


わたし、ポカリ作ってくるからやっといてよ、と鞠子はみんなをぐいぐい掻き分けて、再び部室に入って行った。


どうしたんだ、何があったんだ、と口ぐちにみんなが散らばって行く。


腹を抱えて蹲っていたおれは、


「おう、これ、あずかっといて」


とレーキを誉に預けて、部室に走った。


中では鞠子が3台のサーバータンクにスポーツドリンクの粉末を入れている所だった。
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