君に届くまで~夏空にかけた、夢~
「実はね」


突然、鞠子が振り向いて思わずとっさに目を細めた。


鞠子は、笑っていた。


「わたし、失恋したの」


窓から差し込んでくる陽射しが。


いや、鞠子の笑顔がやたらと眩しくて、まともに見る事が出来なかった。


「え! 鞠子、好きなやついたの?」


「いた! っていうか、いる」


ひひ、と恥ずかしそうに笑って、鞠子は頷いた。


「けど、完璧に振られちゃった。ていうか。告白する前に門前払いっていうかね」


「なんだよ、告白してねえのかよ」


「でも、振られたの」


「意味わかんね。告白してみればいいだろ。まだ分かんねえじゃん」


おれが言うと、鞠子は弱く首を振ってまた笑った。


「分かる。撃沈。すごく大好きな人に失恋しちゃった」


ベタかな、と短い髪の毛に触れて、エスプレッソティーを口に含んだような笑い方をした。


ああ、そうか。


だから昨日、あんな顔してたのか。


失恋した鞠子には酷な発言だったのかもしれない。


と反省した。


恋愛しに来たわけじゃない、とか。


そんな事に時間割いている余裕はない、だとか。


鞠子の恋心そのものを真っ向から全否定したようなものだ。


「だからね、切ったんだ」


と鞠子はおれに背中を向けて、サーバータンクに氷を入れ続ける。


「なんだよ……告白もしてねえのに、勝手にダメだって決めつけんなよ」


頑張れよ、そう言ったおれを鞠子は呆れた様子で笑った。

< 89 / 193 >

この作品をシェア

pagetop