君に届くまで~夏空にかけた、夢~
「ちょっとー。デリカシーない事言わないでよ」


「んだって、分かんねえじゃん。もしかしたら、うまくいくかもしれねえじゃん。付き合えっかもしれねえだろ」


「無理なの。むーりー」


「絶対か?」


「絶対」


と鞠子は自信ありげに頷いた。


「その人、今それどころじゃないから。だから、わたしもすっぱり諦めて、前に進もうと思って。マネージャー業に専念するのよ」


そう言って明るくつとめて笑う鞠子に、それでも頑張れ、なんてデリカシーのない事は言えなかった。


「頑張れば。諦めないでいれば。いつかきっと想いは届くって信じてたんだけど。もう届かないって、分かったから」


もういいの、そう言って、鞠子は肩をすくめて背を向けた。


ぎゅっ、ぎゅっ。


サーバータンクのふたをしっかり締めて持ち上げた鞠子に手伝おうとすると、


「持つよ」


「いい。ひとりで持って行けるから」


あっさり拒否されてしまった。


いつもなら、鞠子の方から「これ持って」「あれ運んで」って言うくせに。


「けど。ひとりで3台も重いだろ」


いつも、人をこき使うくせに。


「いい! 重いけど、決めたから。修司に、みんなに頼らないって」


突然、そうあからさまな態度を取られると、困惑する。


どう反応すればいいのか、困る。


「行くよー」


とサーバータンクを細い腕に3台もぶら下げて、ふらつきながら部室を出ようとする鞠子を呼び止める。


「昨日のメールの事なんだけど、おれ――」


「修司!」


立ち止まった鞠子が、弾かれたように振り向いた。


いつもと何も変わらない、明るい表情だった。


平気だから。


鞠子は、そう言った。


「本当にひとりで持てるから。大丈夫だから。わたし、強いから」


ひとりでも大丈夫だから、そう言った鞠子は何かを振り落したようなスッキリした笑顔で、元気に部室を出て行った。
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