君に届くまで~夏空にかけた、夢~
本当に、清々しい顔だった。


「強いからって……何なんだよ」


午後の部室はもう蒸し風呂状態で、というより、もう完全にサウナで。


ただ突っ立っているだけなのに、だらだら、汗が首筋を流れる。


もうじき、先輩たちがグラウンドに入って来る。


また、きつい練習だ。


行こう。


グラウンドに、行こう。


頭からはそう指令が出ているのに、すぐには足が動いてくれなかった。


「頼るとか……頼らないとか……」


一体、何なんだ。


わたし強いから、ひとりでも大丈夫だから、平気だから、って。


……何なんだ。


鞠子が笑顔で言ったその言葉たちの意味を、おれはまったく分かっていなかった。


開け放たれた窓の外に視線を飛ばす。


ここから真っ直ぐに、おれの守備位置が見える。


そこに、陽射しが燦燦と降り注いでいる。


「あっち……」


練習着の袖で額の汗をぬぐい、帽子を深くかぶり直した。


行こう。


部室を出て、胸いっぱいにたっぷりの青空を吸い込んだ。


何度も何度も、吸い込んだ。


でも、おれの肺はきっと何か所にも小さな穴が空いているのだと思う。


吸い込んでも、吸い込んでも、どこかからすかすかと漏れ出すのだ。


いつまでたっても、胸が満たされる事はなく、すかすかしていた。


見上げた空は、泣けるほど青く清潔で。


せんべいのようにバリバリと砕けて落ちて来そうなほど青くて。


もう一度、帽子を深くかぶり直す。


そして、おれは今日も、夏空の下で煌めくグラウンドに飛び出して行く。











練習は午後1時きっかりに始まって、いつもよりかなり早い19時に終わった。


明日から、2学期が始まる。


明後日からは、休み明けテストだ。


それもあるし、強化練習の疲れが残っているだろうからという事もあって、練習が早く終わったのだ。
< 91 / 193 >

この作品をシェア

pagetop