君に届くまで~夏空にかけた、夢~
「え……はい、そっす!」


急に動きを止めたものだからどばどばと汗が噴き出した。


練習着の袖で目元の汗をぬぐう。


声がした方に目を凝らす。


2、3人いる。


誰だ。


「あのー! 今日はもう練習終わったんですかー?」


暗くてしっかりとは確認できないが、やはり、2、3人いる。


「終わったっす!」


帽子を取りながら返事をすると、その人影たちは何かを話して、、じゃあいいでーす、と走って行った。


これは決して珍しい事ではない。


今日の午後だって近くの聖和女子(せいわ)の子たちが練習を見てきゃあきゃあ言って、帰って行った。


昨日も、一昨日も。


そのほとんどの目当ては、大抵は菊地先輩だ。


だから、今のもたぶん、そうなんじゃないだろうか。


なんて考えながら再びグリップを握って構えた時だった。


またライトのフェンスの向こうに人影が現れて、


「なあー! おーい!」


それは、明らかに男の声だった。


「ここ、見学できんのー?」


「……できるっすけど、今日はもう練習終わりましたよ」


じっと目を凝らしながら返すと、その人影が動いた。


どうやら、グラウンドに入ろうとしているらしい。


でも、入り方が分からないのか、その辺りをうろうろ行ったり来たりしている。


「なんだよ、これー」


終いにはこれだ。


「まるで刑務所だなあ」


と、フェンスをガッシャーンと蹴っ飛ばした。


なんて非常識な人だ。


「そこからは入れないんすよ! 今、夏休みなんで、裏門しか開いてなくて」


おれが言うと、そいつは「はあ?」と不機嫌極まりない声を出してガシャンガシャン、フェンスを蹴っ飛ばす。


うわ。


壊されでもしたらたまったもんじゃねえな。


「あ! そこに居てください! おれがそっちに行くっすから!」
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