君に届くまで~夏空にかけた、夢~
フェンスに駆け寄って行き、


「すいません。今日はいつもより早く練習終わったんすよ」


帽子を取って一礼すると、男はフェンス越しにおれを舐めるようにじろじろと見つめて来た。


「おー。背、でっかいねえ、お兄さん」


ぎょっとした。


何だ、この男。


年下なのか同年代なのか年上なのか、判断がつかない。


ぎょろっと動く、でっかい目。


シャープというより、やつれたように痩けたフェイスライン。


暗いのに、はっきりと分かるキンキラの髪の毛。


目尻に、鼻に、両耳に、じゃらじゃらと大量のピアスがぶら下がっていて、明らかに柄の悪い風貌だ。


「お兄さん、何年生?」


フェンスの向こうから、きつい匂いがぷんぷん香ってくる。


う、とむせ返るくらいきつくて濃い匂いだった。


「1年す」


「へええ」


にたーと笑った男の口の中で、ピアスが光った。


べろにもピアスが輝いていた。


顔や耳、首にもがちゃがちゃと光物を付けている。


「自主練?」


「……はい」


「頑張るねえ。さすが、天下の桜花」


むか。


褒めているのか、けなしているのか。


確実に後者だろう。


完全に人をばかにしたようなへらへらとした口調だった。


「ねー、何やってんのー?」


「もう行こうって。その人の他に誰も居ないんじゃ、話になんないじゃん」


さっきの女たちだ。


向こうから、この男をけだるそうに呼んでいる。
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