君に届くまで~夏空にかけた、夢~
ジャラ、彼の身につけている光物が音を立てる。


ボールは大高の手から離れ、夜空に高く高く上がって、フェンスよりも高く上がって、真上から落下して来た。


隕石みたいだ。


トン。


テーン、テーン、テーン、テーン。


急降下して来たボールが芝生を跳ねながら転がって、止まった。


このフェンスの高さを簡単に超えるボールを投げるなんて、素人じゃ、とてもじゃないけど無理だ。


「あの! 野球」


おれが食いつくと、大高は都合悪そうに笑った。


「ああー。昔ね。ちょっとかじってた」


やっぱり。


じゃなきゃ、あんな綺麗なフォームなわけねえよ。


「やめちゃったんすか、野球」


それだけの肩の強さと、コントロールがあるのに。


もったいねえな。


「あー。やめたっていうか、ぶっ壊されたっつーか。イロイロ」


「ぶっ壊されたって……」


「まあ、細かい事はいいじゃん」


ね、と大高は言い、またフェンスに歩み寄って来た。


「ごめんな。すぐ返すつもりだったんだけど」


「いえ……けど、これ、どこで」


言いながらボールを拾い、大高を見つめる。


「なんでこれ持ってたんすか」


大高はその問いに対して答えなかった。


答えなかったけど、へらへら笑った。


「あ、それ、一か所縫い目がほつれてるから」


見ると、本当に一か所だけほつれていた。


「マネジャーさんに縫い直してもらってよ。ね。居るでしょ、マネージャー」


「はい」


その時、とうとうしびれを切らしたのだろう、女たちがぎゃあぎゃあ騒ぎ出した。


「シカトしてんじゃねーよ!」


「腹減った! おごってくれるって言ったじゃん!」


あーん、とけだるそうに返事をして、大高は気味の悪い笑顔で言った。


「女ってこわいよなあ」


前歯が一本欠けている。


「平野くんだっけ。お兄さんも気を付けた方がいいよ。女には」


「え?」


大高は笑いながら言う。


「女って汚えからさ」


でも、その口ぶりには、憎しみが込められているような強いものだった。


目が笑っていなかった。


「可愛い顔して、腹ん中はどす黒いからさ。女って生き物はさ」
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