君に届くまで~夏空にかけた、夢~
猛ダッシュで部室に駆け込むと、


「どうした!」


「あ、修司」


そこにはきょとんと、いつもと何も変わらぬ顔で振り向く鞠子が立っていた。


「すっげえ音が」


したから……鞠子に何かあったんじゃないかと思ったんだけど。


「あ。やだ。外まで聞こえたの?」


あはは、と本棚の前で笑う鞠子の足元には、横たわる脚立と昨日おれが下ろしてやった段ボールがあった。


じっと、脚立を見る。


あの音の原因は、これか。


「何やってんだよ。怪我してねえよな?」


テーブルの上にバットとボールを転がらないように置いて、倒れた脚立を起こそうとすると、


「いい! わたしやる」


とまたもや拒否されてしまった。


「データまとめるの終わったから片そうと思ったんだけどね」


言いながら、自分よりも遥かに背が高い脚立を一気に起こして、


「でも届きそうにないから、2階から引っ張り出して来たはいいんだけど」


とん、と脚立に手を添えて「この通りさ」と鞠子はくすぐったそうに笑って階段を指さした。


「階段の真ん中あたりから落っことしたってわけだ」


うははは、なんてあまりにもあっけらかんと笑うものだから、怒る気にもなれず、苦笑いした。


「鞠子が怪我してないならいいよ。でも、気を付けろよな。どうすんだよ、脚立の下敷きにでもなって怪我したら」


おれはテーブルの上に置いていたバットを掴み、ケースに突っ込んで、


「あとはおれがやるから」


と段ボールを持ち上げ、一気に棚の上に積み上げた。


そして、鞠子から脚立を奪った。


「うお。潰れてんじゃん」


おれの背丈とそう変わらない脚立を肩に担ぐ。


「まあ、こんくらいのへこみならばれないべ。秘密にしといてやる」


と2階に上がり、脚立をいつもの位置に戻して下りて来ると、鞠子が仏頂面で睨んでいた。
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