砂漠の水車
「ところでお爺さん、何を掘っているんです」
アルファは、底深く渇いた土の壁に手をあてがって首を傾げた。
軍から隠れるための物にしては深すぎるし、穴が広くて派手過ぎる。
老人はアルファの手元に視線を流し、そして地上に向けて頭を上げた。
太陽は容赦なく、何が恵みの光だ、ただ身を焼くばかりの日を穏やかな碧の瞳をで眺めている。
「水さね」
老人は躊躇わずにはっきり応える。
水を掘っていると、騎士を見詰めて答えた声色は、狂おしいほどの自信があった。
「水?
でも、ここには…」
アルファは、英国兵基地から随分歩いてやって来たこの街は、普通の生き物では生きられないほど乾いている。
水なんてあれば苦労はしない。
「わかっている、さ。
水など湧かぬと、言うのだろう」
「…………」
頷けない。
まるで教師に回答を見透かされたような気分で、敢えて頷くにはばつが悪くて。
必死ならしい老人を笑う勇気はなかった。