砂漠の水車



二人が黒のヴェールを翻して背中を向けたときである。



「お待ち下さい、旦那さま!」



と、女性が英語で叫んだ。



驚いて振り返ると、女性はヴェールを取って立ち上がっていた。


なお驚いたのは、脂肪とは別意味で膨らんでいたその腹である。



「妊婦……」



女性は大きな目から涙をぼろぼろと零し、妊婦らしからず駆けだすとジンの服の裾に縋り付いた。



そして今度は、二人が聞き取れない何かしらの言語でぶつぶつ喋っている。





「何をしているんです、離れなさい!」



レインがすぐさま女性を引き離すが、女性は今度は泣き叫びながら再度裾に縋って来る。




「馬鹿。
英語じゃなきゃ通じないだろ」



「…失礼しました」



ちなみに彼らの母国は英語とドイツ語を使い分けている。


その理由はいろいろ歴史を遡ることになるので、ここではとりあえず省くが、女性はやはり英語で精いっぱいらしい。




< 23 / 77 >

この作品をシェア

pagetop