砂漠の水車
二人が黒のヴェールを翻して背中を向けたときである。
「お待ち下さい、旦那さま!」
と、女性が英語で叫んだ。
驚いて振り返ると、女性はヴェールを取って立ち上がっていた。
なお驚いたのは、脂肪とは別意味で膨らんでいたその腹である。
「妊婦……」
女性は大きな目から涙をぼろぼろと零し、妊婦らしからず駆けだすとジンの服の裾に縋り付いた。
そして今度は、二人が聞き取れない何かしらの言語でぶつぶつ喋っている。
「何をしているんです、離れなさい!」
レインがすぐさま女性を引き離すが、女性は今度は泣き叫びながら再度裾に縋って来る。
「馬鹿。
英語じゃなきゃ通じないだろ」
「…失礼しました」
ちなみに彼らの母国は英語とドイツ語を使い分けている。
その理由はいろいろ歴史を遡ることになるので、ここではとりあえず省くが、女性はやはり英語で精いっぱいらしい。