砂漠の水車
二人は女性をなんとか宥めすかして、落ち着かせた彼女を小屋の奥に座らせた。
そしてやっと聞き取れるゆっくりとした英語で、ぽつぽつ語りかけ始めた。
「旦那様…ミーナのために、このミーネのために帰ってきてくださったのですね…」
「…………」
「ミーナは、ミーナは嬉しゅうございます」
「…………」
「いやいやいやいやいや」
途切れ途切れの女性の言葉を節々拾って解析可能だった言葉がそれらである。
レインが手にしていた拳銃の撃鉄を起こしたので取り敢えずそれを仕舞わせて、ジンは女性に解らないようドイツ語を使って言った。
「おそらく腹の赤ん坊の父親だろう、ただの人違いだ」
「人違いで主と間違えますか、東洋人と西洋人の顔ぐらい見分けがつくでしょう肌の色も目の色も確実に違うでしょうに、っていうか確実に主よりも年上ですよね、自分より年下ってわかってますよね、まだこの人が結婚不可能な年齢であることくらい見て予想が付きますよね」
「だからその銃を仕舞いなさい」
なんか物騒なので没収することにして。
「父親は西洋人、おそらくは英国人なんだろう」
「しかし、英国人なんて兵隊くらいしか…」
だから」
ジンは、少々言葉に出すのを躊躇った。