砂漠の水車



「ミーナはね、世界にある物全てを愛したがる子なんだ。

お腹に宿ったのがあの残忍で冷徹な男の子供だとしても、でも自分の子供だと言って産みたがった。

だからわしは掘らねばならない。
掘って水を沸かさねばならない。

ここにはもう、食料はない。

もう少しでミーナの子供が、わしの孫が生まれてくるんだ。

水が無ければ愛すべき私の娘も孫も、死んでしまう…」



「だったら」



アルファは喉につっかえる不明瞭な感情を飲み込んだ。


その所為で声が裏返る。



「僕たちが安全な街まで送りましょう。
20マイルも引き返さなければなりませんが、でも、ここで飲まず食わずよりはずっとマシな筈です」



「………」



「行きましょう。
ヒツギはジンくんたちについて行って、僕とグレンで街まで引き返すから」



「ああ」



「いや…いかん」



老人はまた穏やかな、しかし少し自嘲の交った顔で青年たちを見上げた。


帝国の『偽善』が、人をぬかよろこびさせる。


それでも嬉しいと、老人は乾ききった頬に涙を流した。




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