砂漠の水車
『見ろ、人が生きている』
そんなの至極当然で、人なんだから生きてるだろう。
でもそれはある一種の思い込みで。
『見ろ、人が生きている』
ここにだって人はいる。
死んでいたって人はたくさんいるし、見ろ、ここにはきちんと生きている人がいる。
「歯痒いな。
殺人に関してはスペシャリストを名乗る自信があるが、しかし人助けに関しては全く子供のように、俺は無知だ」
ジンは自嘲気味に笑った。
下らないことを言ったあと、人は助けるべきものだと認識できた自分にひどく感心して、可笑しくて可笑しくて、少し嗤ってしまった。
きっとこれが帝国だったら、騎士団の一隊長たる権限で犯罪者を無罪にすることだって可能であろう。
でもここでは、彼の権限など無力に等しい。
できることといえば英国に助力を求めるくらいであろうが、軍に私的な協力を求めるほどジンにはパイプを持ち合わせていない。
「そう…そうだな、レイン」
「はい?」
「早く大佐を救出しに行かなければならないね」
「…はあ」
ジンは気を引き締めるためにぐっと背伸びをして息を吐いた。