砂漠の水車



アルは床の上の惨劇跡を眺めながら、一歩ずつ慎重に部屋に入ってきた。


この自称紳士のフェミニストは、剣を腰に差しながらも絶対に人をやらない平和主義者だ。


折角外の見張りに徹すればいいものを、特殊に仕立てた綺麗なスーツが台無しになっている。


俺の場合は仕事の度に買い替えが続くので、最早あまり気にしてはいないが。



「その子、孤児院に預けることを提案します」


「なにを」



馬鹿なことを抜かすか、と俺は鼻で笑って見せた。


「家族は全員消すって言ってるだろ」


「でもまだ赤ん坊です」


「だが家族だ」


「生まれてまだ一年もいきていないんですよ」



俺はつくづくこいつの甘さに尊敬をしなければならない。


赤ん坊だから、というのはつまり社会において守るべき存在であるという既存の倫理観故の判断だろう。


くだらない、それに不公平だ。


社会的弱者を救いたいと思うなら、どうして俺が夫人を刺し殺すのを止めなかった。


女性だって弱者だろう。



「悪いが聞き入れたくない」



俺は笑わず答えた。






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