砂漠の水車
砂漠を歩く彼の足取りは、今にも倒れそうなほどふらふらしている。
見兼ねたジンがその傍らに立ち、さりげなく肩を並べて支える。
「…お前、相も変わらず無謀なことするな」
「無謀結構、強情さは不覚にも君から学びましたから…まあ、それにも使いどきってのがあるらしいですがね」
皮肉めいた碧眼はとろんと曖昧に光っている。
「あの親子は既に衰弱しているよ。
すぐに対処したって、あれはあと数日で死ぬだろう」
「君も本当にひどい子ですね」
「今更変わらない」
「そうですね」
アルファは足元に作る砂の跡をちらと眺めながら、ずっと向こうに置いてきた沢山の墓場に想いを馳せた。
救い切れなかった人たち。
いや、そう言うのは違うか。
騎士団『第7部隊』の副隊長たる立場は人を救うだなんて理想綺麗事も甚だしい。
「なあ、アル」
ジンは声のトーンを落とした。
なに、と応えて振り返ってすぐ、いつもの不遜な深紅の両眼に力が無いのがわかる。
この冷徹人間が流された…なんんてことはたぶんきっと無いのだろうが、その理由がさっきの親子であるには違いない。
小屋から出てきてすぐ、ジンは不思議なくらい唇をきつく結んでいたから。