砂漠の水車
帝国の冬にも負けない恐ろしい寒さが砂漠の国を包んだ辺り。
また一つ煉瓦の建物が軒を連ねる街に出くわした。
数歩足を踏み入れて、一同がおや、と思ったのは、その街には前のものにあった生活感やら人気というのが全くなく、ただ寂しく風と砂が吹き抜けるだけである。
頭から被ったヴェールの中から少しだけ目を覗かせた。
「……おっかしーなあ、静かすぎねえ?」
「ああ、少なくとも一カ月は人がいないな」
夜気の中で紅い眼が不安に光る。
…ああ、これは帝国の石造りの街で見る、あの殺伐とした騎士の眼だ。
「…ジン」
グレンが廃墟の一角に歩み寄った。
廃墟と言っても建物の四方はどれもしっかりしていて、ただ煤や埃が壁にまとわりついていて不気味な雰囲気があるだけである。
グレンはその建物の壁に指を這わせた。
掬い取った黒い煤をじっと見つめて、顔を上げる。
「火薬だ」