砂漠の水車
「なーあ、レイン。
お前ここで氷とかだせねえの?」
「無理ですよ」
氷を扱う魔術師として、彼女がいればまあ大丈夫だろうとヒツギは思っていたわけなのだが。
生憎とレインは腰に差した剣を仕舞いっぱなしである。
「こんな乾いた環境じゃ、私の微々たる魔術では米粒程度も作れません。
もっとも、ヒツギさんがご自分の体液を犠牲になさるなら別ですが」
「うへえ、やだよ」
自分の体液から作って飲んだって、それお即ち差引ゼロ。
そもそも体液…血液、汗の類を平然と飲めるほどヒツギは非常識人ではないと自負している。
ファンタジー要素だる魔術も所詮は『術』。
物を造りだすにも周囲に原因物質たるなにかが無ければ製造は不可能である。
火なら酸素という具合に。
ここには水なんて無いのだから氷など尚更である。
「あちいー…なあーアル、ちょっと水譲ってくんない?」
「…一口ですよ?
一口だけですからね、本当に一口だけですからね?」
「へえへえ」
「ああっ、飲み過ぎですよ!」
統率責任者たるジンは、やっぱり少人数で来るべきだったと後悔した。