砂漠の水車
専制的な政治の世界でこそ、水車は平等には回らない。
どれだけ理不尽だと嘆いたって『エライ人には従うべき』既存のルールが根付いている以上は、結局対抗しうるに値しない。
そういう世界なのだから、仕方の無いこと『なのだろう』が。
「涼んだら行くぞ」
ジンは黒いヴェールを翻し、頭から被り直した。
返答も待たず、廃屋から抜け出してジンはどこへとも解らない足取りでふらふらと歩きだす。
まだ10分も経っていないのに。
確保した静けさを名残惜しむ一同を尻目に、レインがそれに続いて出て行った。
「主」
「………」
「主、ご気分が悪いのでは?」
それが呼び止めの言葉のように思えて、ジンは立ち止まって振り返った。
普段から顔が白いのはいつものことだが、今日も今日とて『変わりが無い』。
猛暑を相殺するほど、彼の腹の中では不快な物が渦を巻いている。
死した腐敗臭、それに頭が割れるほど強烈な火薬の臭いの中、未成年の少年が普通に立っていられるだけでも褒められたものだ。