アカイトリ
全身を汗に濡らして飛び起きた。
「…夢かよ」
幼い頃より父…黒い鳥の狂(きょう)から呪いの言葉を聞かされ、心も真っ黒になった。
父だけでなく、この俺の心さえも。
――ここは天花が掠われ、颯太が凪から斬られた洞窟。
凪は起き上がる。
べったりと颯太の鮮血が地面に飛び散っている。
それを指でなぞると、渇ききった血はぱさぱさと風に吹かれた。
…面白いことを言っていた。
「どっちともでもある、か…」
悪とはつまり巨大な力。
神はそれを全て黒い鳥の形をした容れ物に込めた。
醜く邪悪な感情は全て黒い鳥の中に。
父は、楽園でもつまはじきにされ、孤独だったと言っていた。
『美しい方だった。だが俺は愛されなかった』
――蜂蜜色の髪と、全てを飲み込む深い藍色の瞳。
きっとあの方以上に美しい存在は、ない。
…粗暴だった父でも、それだけは認めていた。
「…あいつと似てんな」
――颯太と。
束の間言葉を交わしただけだったが…天花より、よっぽど興味を抱いた。
「あいつ、天花以上に良い香りがしやがったな」
戯れに重ねた唇も、とろけるような甘さで意識が飛びそうになった。
神と碧の禁忌――
碧と人の禁忌――
「似ているのか、神と」
“癒しの鳥”だった碧の血を継いだ颯太。
“全知全能の神”の力を継いだ黒い鳥。
共につがいは造られず、また出会うこともなかった。
――黒い鳥は、碧い鳥が神を裏切ってから造られた鳥なのだから――…
…あの男の寿命はあと僅か。
もしかしたら、先の刀傷でそれをさらに縮めたかもしれない。
急激な後悔が身を襲う。
こんなことは、はじめてだ。
話してみたい、もっと。
聞いてみたい、裏切りの理由を。
「…親父は碧のことを何も教えちゃくれなかった」
ただ、呪詛の毎日。
「よし、会いに行くか」
邪悪な心の持ち主は、わずかな高揚感と共に颯太の元へと向かった。
「…夢かよ」
幼い頃より父…黒い鳥の狂(きょう)から呪いの言葉を聞かされ、心も真っ黒になった。
父だけでなく、この俺の心さえも。
――ここは天花が掠われ、颯太が凪から斬られた洞窟。
凪は起き上がる。
べったりと颯太の鮮血が地面に飛び散っている。
それを指でなぞると、渇ききった血はぱさぱさと風に吹かれた。
…面白いことを言っていた。
「どっちともでもある、か…」
悪とはつまり巨大な力。
神はそれを全て黒い鳥の形をした容れ物に込めた。
醜く邪悪な感情は全て黒い鳥の中に。
父は、楽園でもつまはじきにされ、孤独だったと言っていた。
『美しい方だった。だが俺は愛されなかった』
――蜂蜜色の髪と、全てを飲み込む深い藍色の瞳。
きっとあの方以上に美しい存在は、ない。
…粗暴だった父でも、それだけは認めていた。
「…あいつと似てんな」
――颯太と。
束の間言葉を交わしただけだったが…天花より、よっぽど興味を抱いた。
「あいつ、天花以上に良い香りがしやがったな」
戯れに重ねた唇も、とろけるような甘さで意識が飛びそうになった。
神と碧の禁忌――
碧と人の禁忌――
「似ているのか、神と」
“癒しの鳥”だった碧の血を継いだ颯太。
“全知全能の神”の力を継いだ黒い鳥。
共につがいは造られず、また出会うこともなかった。
――黒い鳥は、碧い鳥が神を裏切ってから造られた鳥なのだから――…
…あの男の寿命はあと僅か。
もしかしたら、先の刀傷でそれをさらに縮めたかもしれない。
急激な後悔が身を襲う。
こんなことは、はじめてだ。
話してみたい、もっと。
聞いてみたい、裏切りの理由を。
「…親父は碧のことを何も教えちゃくれなかった」
ただ、呪詛の毎日。
「よし、会いに行くか」
邪悪な心の持ち主は、わずかな高揚感と共に颯太の元へと向かった。